ビジネスの競争環境の一般的な特色
今回は、あらゆる業界に共通する特色を知るために、主たる5つの業界環境をサンプルにします。
そして、既に述べた分析技法により、この5つの業界環境の特徴を把握します。
この中から、今あなたが属している業界についての項についてご覧ください。
分析の対象とする5つの業界環境
ポーターが抽出・分析した業界環境の5類型は次のものです。
- 多数乱戦業界
- 先端業界
- 成熟期へ移行する業界
- 衰退業界
- グローバル業界
この5つの環境は、どのような業界にも見られるものです。
これらの類型的業界環境の特徴を自社の業界に当てはめて考えると、戦略立案がスムーズにできます。
また、こうした環境の理解は、新規参入を検討する業界での戦略立案にも役に立ちます。
分析1 多数乱戦業界
多数乱戦になる原因
多数乱戦業界は、競合業者が入り乱れ、激しい戦いを繰り広げている業界です。
ポーターは、多数乱戦になる原因としては、次のような要因を挙げています。
- 参入障壁が低い
- 規模の経済または経験曲線が効かない
- 高い輸送コスト
- 在庫コストが高く、売上変動も大きい
- 買手や供給業者が強すぎる
- 規模の不経済性が致命的
- どんな品種も作れる製造設備
- 溢れるばかりの創造性が売りモノ
- 作業現場に密着して,管理・監督をしなければならない
- 人手によるサービスが決め手になる
- 地元というイメージや地元との結びつき
- 多様な市場ニーズがある
- 著しい製品差別化やイメージによる差別化
- 撤退障壁が大きい
- 法律や条例等
- 政府による企業集中の禁止
- 新規の業界
などなど
多数乱戦を制圧する方法
多数乱戦業界では、比較的競争力の弱い競争相手が多いです。
そのため、この業界を制圧しても、報復の心配が少ないので、大きな利益が得られます。
多数乱戦業界を制圧する方法としては、次のものがあります。
- 規模の経済や経験曲線が作用する条件を作り出す
- 多様な市場ニーズに標準品で対応する
- 多数乱戦の主原因を無力化するか切り離す
- 吸収合併して利益の出る規模まで大きくする
- 業界の動向を素早く嗅ぎとる
多数乱戦業界での対処法
自社の力のみでは、多数乱戦構造を制圧できない場合には、戦略によって自社のポジションを換えます。
- 強力な本社制度に支えられた分権制度
- 設備の標準化
- 付加価値を高める
- 製品の種類や製品セグメントを専門化する
- 顧客のタイプで専門家する
- 注文のタイプで専門家する
- 特定の地域に集中する
- 飾りを捨てて裸で勝負
- 川上に向かって垂直統合する
戦略策定の手順
こうした手法を展開する手順
- まず業界の構造を分析して多数乱戦の原因を明確にする。
- その上で、状況変化が可能かその手段・利益の可能性を考える。
- 多数乱戦が避けられない場合、どう対処すべきかを考える。
具体的には、
業界構造はどうなっているか
競合業者は、それぞれどんな位置にいるか
↓ ↓
多数乱戦の原因は何か
↓ ↓
多数乱戦状態を変えられるか
その方法は何か
↓ ↓
変えた場合、利益が得られるか
その時、自社はどういう位置にいなければならないか
↓ ↓
多数乱戦が避けられない場合、どう対処するのが最善か
分析2 先端業界
先端業界は、将来が不確実で、企業の戦略もまだ定まっていません。
この業界では、業界への参入タイミングと参入後に取る戦略が重要になります
先端業界とその特徴
ここでいう先端業界とは、「新たに生まれた業界」、あるいは「再編されたばかりの業界」です。
必ずしも「先端技術」の業界では、ありません。
ポーターは、先端業界に共通する特徴として、次のようなものを挙げています。
- 技術の将来性が定かでない
- 戦略が定まっていない
- コストは高いが急速に低下する
- スピンオフ企業が次々と生まれる
- 初めての買い手ばかり
- 時間視野が狭い
- 助成金が出る初期移動障壁は業界が発展した後に現れる表れる移動障壁とは異なる
・技術が特許で独占されている
・流通チャネルが抑えられている
・インプットが抑えられている
・経験に応じてコストが下がる
・リスクが大きい 等
先端業界の発展を妨げる要因
また、先端業界の発展を妨げる要因としては、次のようなものがあります。
- 原料や部品の入手ができない
- 原料価格が急騰する
- 産業基盤ができていない
- 製品や技術の規格化が進まない
- 次々にいいものが出そうだと買い手が予感する
- 顧客が混乱してしまう
- 製品の品質にばらつきがある
- 金融界でのイメージと信用が確立されていない
- 法律上の認可が厳しい
- コストが高い
- 脅威を受ける業界や組織の抵抗
以上のように、
〇 先端業界の基本特性
〇 初期移動障壁の特徴
〇 業界の発展を妨げる要因
を理解することが、戦略の基本となります。
先端業界の競争戦略
先端業界の企業が戦略を立案する場合
- 市場の選定
- 戦略オプションの選択
- 参入のタイミング
これらについて、予め知っておくことがいいでしょう。
有利な市場を見極める目
先端業界が最初に直面する課題は、「業界で製造する製品が、どんな市場に受け入れられやすいか」「どの市場が早く開拓できるか」ということです。
顧客が新製品を早く採用する決め手として、ポーターは次の点をポイントとして挙げています。
- 買い手にとって、どのようなベネフィットがあるか
- 買い手の用途によって、必要とされる技術水準が違う
- 新製品に欠陥があった場合の損害
- 新製品の採用や切り替えに必要な費用
- 援助サービスの有無
- 陳腐化コスト
- 買い手により、政府・法規・労働慣行が妨げとなる程度が異なる
- 変更に必要な経営資源
- 技術変化の受け止め方が異なる
- 採用・決定する(立場にある)個人のリスク
戦略オプションの選択と参入タイミング
産業界の将来は不確実ですが、反面、多様な戦略を選択選択できるという特徴を持っています。
こうした中で、「業界の秩序」を作るだけの力が企業にあれば、その業界で強いポジションに立てるでしょう。
「業界発展か・自社の利益か」というバランスをとる必要もあります。
さらに、「原材料の供給業者や流通業者をうまく使う」「移動障壁を変化させる」 なども重要な戦略になります。
また、先端業界には良いタイミングをで参入することが大切です。
例えば、パイオニア(先行者)としてのポジションを獲得したり、経験曲線を少しでも早く教授したりするには、業界への少しでも早い参入が不可欠です。
シナリオ ~ 先端業界を予測する技法
先端業界を予測する技法の一つに「シナリオ」という手法があります。
これは「世の中が将来どうなるか。それぞれ首尾一貫して書き上げられた、いくつかの見方」というものです。
製品や技術の改良を予測して、「どういう市場が開拓できるか」を考えるとともに、それが「将来の競争に、どのような影響を及ぼすのか」、こうした一連の内容を取りまとめてシナリオとして将来を予測します。
分析3 成長期へ移行する業界
成長期の業界では、成長鈍化により、どうしても競争が激しくなります
この時期には、3つの基本戦略のいずれを選択するかを明確にしなければ、競争に敗れてしまうリスクがあります。
成熟期へ移行する業界の特徴
全ての業界が PLC(プロダクト・ライフサイクル:前回参照) の過程を経るか否かは別にして、多くの業界は、急激な発展からやがて成熟期を迎えることになります。
ポーターは、成熟期へ移行する業界の特徴を次のように分析しています。
- 業界の成長が鈍化することで、シェア獲得競争が激化する
- 買い慣れた客が多くを占めるので、相手の交渉力が強くなる
- 競争の重点がコストとサービスに移行する
- 設備能力と人員の坂上が出ないように増強するのが難しい
- 製造マーケティング流通販売研究など全てのやり方が変わる
- 新製品や新要素が現れにくいにくくなる
- 国際競争が激化する
- 利益が低下するが一時的な場合と永続する場合とがある
- 流通業者のマージンは減るが力は強まる
特に、「業界の成長が鈍化することで、シェア獲得競争の激しさが増す」「買い慣れた客が多くを占めるので、交渉力の強い相手を相手にしなくてはならない」は実感出来ることと思います。
これらの要因からだけでも、成熟期に業界で競争環境が熾烈になることは明らかです。
「成長期とはうってかわって、競争環境が根底からくつがえる」とも言えます。
企業は、成熟期のこの激変に対応しなければなりません。
成熟期へ移行する業界の競争戦略
成熟期へ移行する業界では、窮地に追い込まれる企業も増えます。
こうした企業の多くは、マイケル・ポーターの3つの基本戦略の何も採用していない場合が多いので、何を作業するのか明確にする必要があります。
成長期へ移行する業界での戦略立案
成長期には、業界のいずれの企業にも余裕があります。
ところが、成熟期に移行する業界では、一転して成長期とは異なる激しい競争環境となります。
ポーターは、こうした成熟型に移行する業界では、次のような点を戦略立案のポイントとして挙げています。
- 3つの基本戦略の何をするのか明確にする
- 精度の高い原価計算・分析を行う
- 製造工程の革新と製造に適した製品設計
- 顧客の購買層を拡大する
- 安い資産を買う
- 顧客の選び方を変える
- 7コスト曲線を考える
- 国際市場で競争する
戦略立案にあたっての注意点
また、成熟期には「シェア拡大を狙った投資は、多くの場合無駄になる」という点も要注意です。
加えて「以前ほど昇進が期待できない」などといった、組織的な問題にも対処する必要が出てきます。
成長期から成熟期への移行期にありがちな落とし穴・見当違い
・自社と業界の捉え方が実態にそぐわない
・好調だったのに、なぜか窮地に追い込まれる
・成熟期にシェア拡大を狙う投資は無駄になる場合が多い
・目先の利益を求めるあまり、シェアを容易に諦めすぎる
・「絶対に価格勝負はしない!」等のように、価格競争を嫌い感情的な反発をする
・業界慣行が変わるのを嫌い、感情的に反発する
・「創造的な」「目新しい」製品に力を入れすぎて、従来からの製品の改善や売り込みの強化を怠る
・競争相手の価格構成やマーケティング活動に対抗しない言い訳に、「高品質」を標榜する
・過剰キャパシティの圧力
移行期に入っているにもかかわらず、それを理解せず、上記の状況に陥ることはよくあります。
要注意です!
分析4 衰退業界
衰退業界とは、「長期にわたって販売数量そのものが下降を続けている業界」です。
ポーターはこうした衰退業界の競争構造を以下の視点で説明しています。
衰退期の競争を左右する要因
ポーターは「需要の状態」「絶対障壁の大きさ」「競争を引き起こす要因」 から、衰退期の業界における競争構造を説明しました
「需要の状態」とは、需要が落ち込む経過や、残っている市場セグメントの特徴のことです。
衰退期の競争環境は、この状態によって大きく変わります。
例えば、需要の落ち込みに対して競争業者の多くがいずれ盛り返すと考えている業界では、競争が熾烈になることは明らかです。
一方で、残っている市場セグメントの買い手が、価格に敏感でないとか交渉力が弱い場合、衰退業界でも収益は得られると考えられます。
撤退障壁と競争を引き起こす要因
撤退障壁が大きな業界では、衰退期の競争は激しくならざるを得ません。
転用の効かない耐久資産や、撤退に関わるコストの大きさなどの撤退障壁により、業界に止まらざるを得ない企業が増えるからです。
また、競争を引き起こす特定の要因も、競争環境を大きく左右します
例えば、「製品が特徴のない汎用品である」「固定費が大きい」「絶対障壁により、多くの企業が業界から足を洗えない」などは、当然のことながら競争の激しさを増す要因です。
衰退業界の競争戦略と種類
ポーターは、衰退期の競争戦略として 次の4つを挙げています。
- リーダーシップ戦略
- 拠点確保戦略
- 刈り取り戦略
- 即時撤退戦略
リーダーシップ戦略とは、自社を業界唯一の生き残りにする戦略です。
この戦略では、大きな投資によるシェア拡大で他社を設備廃棄に追い込んだり、競合業者を買収したりする方法があります。
また、撤退障壁を低くするように努め、追い詰められた企業が、業界から撤退しやすくするのもこの戦略における重要な手法です。
拠点(ニッチ)確保戦略とは、比較的需要が安定していて衰退が緩やかなセグメントを見つけ出し、ここでの生き残りを図る戦略です。
これは集中戦略の一形態と考えても良いでしょう。
刈り取り戦略とは、事業から得る収益を最大にするもので、「投資をやめる」広告をやめる」「設備維持の手間を省く」などを実行することです。
即時撤退戦略とは、投資回収を最大限の目標にして、衰退期に入ったらすぐに業界から撤退する戦略を指します。
どの戦略を選ぶかを簡単に示せば、下図のようになります。
分析5 グローバル業界
グローバル業界とは、企業の国際的なポジションが、地域や国内でのポジションに大きな影響を与える業界を指します。
ポーターは、グローバル化が進展する要因及び障害となる要因として、次のようなものを挙げています。
グローバル化が進展する要因
- 比較優位性(※)
- グローバルな規模(生産・購買・物流・マーケティング)の経済及び経験曲線
- 製品差別化や独自技術
- グローバル経験や生産拠点の移動
※ 比較優位性
ポーターは、比較優位性を「製品の生産に使われる要素コストや要素品質に著しく優れている国は生産地となり、そこから世界に向けて輸出が行われる」と言っています。
このことから、自社の比較優位性を見つけ出せれば、グローバル化ができることが分かります。
もう少し細かくみれば、
きっかけとなる環境変化
・規模の経済が大きくなる
・輸送コストや在庫コストが下がる
・流通チャネルが変化し合理化される
・生産要素コストが変わる
・経済・社会の環境の差が縮小する
・政府の規制が緩和される
戦略イノベーションによるグローバル化
・製品定義の見直し
・狙うセグメントを明確にする
・多国向けの製品コストが下がる
・設計変更により規格部品を多用する
・完成品に替えて主要部品を生産する
・発想の転換で新たな道を開く
などです。
グローバル競争の障害になる要因
一方、特定の障害により、グローバル化が阻害されている業界もあります。
こうした障害は、わざわざ企業がグローバル企業として脱皮しなくても生きていける要因ともなります。
業界のグローバル化の障害となる要因の1つは、「経済的要因」に起因します
例えば、グローバルな展開をすると、輸送コスト及び在庫コストがかさみすぎて割に合わない業界は、グローバル化が進展しにくくなります。
また、国や地域によってニーズに大きな違いがあり、多様な製品を供給しなければならないケースでも同様です。
こうした経済的障害に加え、グローバル化による「経営上の問題」や「政府が課す制約(法律等)」も、業界のグローバル化を阻止する要因として働きます。
グローバル業界が直面する問題
グローバル業界への進展は、環境の変化や戦略イノベーションなどによりもたらされます。
また、この業界で競争するには、グローバル競争に見られる典型的問題に対処していかなければなりません。
グローバルな競争でまず問題になるのは、「法規など個々の国における産業政策と企業の競争行動」との関わりです。
これに加えて、「現地政府との関係」「世界全体を見た市場でのポジション、設備、投資パターン」「競合業者分析が困難で戦略が立てにくい」などがグローバル競争をするうえでの問題点となります。
グローバル競争の戦略案
こうした問題に対処してグローバル業界での競争を有利に進めるために、ポーターは次のような戦略を挙げています。
業界の全製品で競争する
低コストや差別化を実現すべく、業界の全製品・全品種で戦う方法です。
特定のセグメントに集中する
逆に、業界のある特定のセグメントに集中して、コストか差別化を図る手法です。
特定の国に集中する
特定の国をターゲットにして、そこへ集中する戦略です。これらは集中の一形態と考えていいでしょう。
安全地帯を狙う
ポーターは、規制の網をくぐり抜けるのも重要な手法だと言っています。
規制の壁を破って一旦市場に入り込めれば、今度は規制そのものが自身の身を守る障壁、いわば安全地帯になるためです。
また、グローバル業界の新しい動向として、
・国による差が縮まる
・攻撃に転ずる産業政策
・その国固有の資産に着目して保護を図る
・技術の入手が一層容易になる
・新しい大市場が徐々に現れる
・新興先端諸国の挑戦
なども挙げています。
まとめ
今回の話は、ビジネスの競争環境の「一般的な特色」・あらゆる業界に「共通する特色」を知るために、次の主たる5つの業界環境をサンプルにしました。
- 多数乱戦業界
- 先端妖怪
- 成熟期へ移行する業界
- 衰退業界
- グローバル業界
そして、既に述べた分析技法により、各業界環境の特徴を把握したものです。
いわゆる「あるある」的な内容だったかもしれません。
しかし、折を見ての再確認は、時に非常に有効です。
是非、自分のビジネス業界の「現在・過去・未来」に照らし合わせながら、今一度、考える時間を持っていただきたいと思います。