マイケル・ポーターとは
1947年生。父は軍人。1969年にプリンストン大学の航空宇宙機械工学科を卒業後、1971年、ハーバード大学で経営学の博士号(MBA)を取得。
1982年には、わずか35歳で史上最年少の正教授まで上り詰めました。
ちなみに、
「教授はどうして35歳という若さでハーバード大の教授になれたのですか?」
「競争戦略を教えている私が、競争に勝てなくてどうする!」
という逸話があるほどの(ハーバード大学経営学部の)カリスマ教授です。
なお、ポーターの理論は、基本的に「大企業・既存企業の視点」から語られていますので、私たちのようなスモール・ビジネスを営む方は、「裏側から」逆読みして考えてください。
ファイブ・フォースとは
ビジネスの「5つの脅威」あるいは「5つの競争要因」です。
マイケル・ポーターは、「ビジネスを脅かす要因」として、次の5つの脅威を挙げています。
これらを「ファイブ・フォース」と呼びます。
- 新規参入業者(新規参入者の脅威)
- 競合業者(同業者間の競争)
- 代替品(代替商品・サービスの脅威)
- 買い手(買い手の交渉力)
- 供給業者(売り手の交渉力)
ビジネスの成否の要因は、大きく「内部要因」と「外部要因」に分けることができます。
そして、外部要因のほとんどは、さらされている競争環境です。
上記のファイブ・フォース、このチカラが大きくなればなるほど、その業界の競争環境は激しくなります。
ですので、この競争環境を分析し、適切に対応・変化していくことができるかどうか、
これが非常に重要なポイントになります。
要因1 新規参入業者の脅威
新規参入は、参入障壁や既存業者の報復の大きさによって変わります。
そして、新規参入は、参入障壁を克服するコストや報復に対抗するコストを上回る利益が得られる場合に起こります。
新規参入の驚異を左右する要素
① 参入障壁の大きさ
参入障壁が大きいほど、新規参入の脅威は小さくなります。
なお、参入障壁の種類については後述します。
② 既存業者の報復の大きさ
業界の既存業者から受ける報復が大きいと予想されるほど、新規参入の脅威は小さくなります。既存業者の報復とは、新規参入業者に対してとる「敵対行動」のことです。
例えば、成長スピードが遅い業界では、新規参入業者によって既存業者の利益が著しく損なわれる可能性があります。
よって、新規参入業者に対する大きな反発が予想されます。
例えば、大企業であれば、政治家等の力を借りたり取引先等に指示をしたり、です。
中小であれば、よく聞くのは「妙な嫌がらせ」のようなことです。
参入障壁に加え、既存業者の報復は、新規参入業者にとってのコストとして跳ね返ります。
こうしたコストが、得られる利益と比較して嵩むようであれば、魅力が乏しくなり、新規参入は抑えられますし、得られる利益が、参入障壁及び予想される報復に伴うコストを上回るようであれば、新規参入が起こるでしょう。
業界への新規参入はこのような原因で起こり、その脅威が大きいほど、業界内の競争は激しくなります。
参入障壁の種類
〇 規模の経済(低価格等)
〇 製品の差別化(ブランド力等)
〇 巨額の投資(を要するもの)
〇 流通チャネルの確保
〇 その他のコスト上の不利(特許や原材料の独占など)
〇 法律等(で新規参入が困難)
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などです。
例えば、「規模の経済」とは、「生産量が増えると単位あたりのコストが低下すること」です。新規参入業者がシェアに食い込んでいくには、既存業者の、特にコスト面で対抗できないとなりません。
つまり「規模の経済」がモノを言う業界なら、新規参入の脅威は低くなるという事です。
他の参入障壁についても、その力が大きいほど新規参入の脅威が抑制されます。
新規参入の脅威が小さいほど業界の競争は抑えられますし、大きければ競争は激しさを増すのです。
私たちのようなスモール・ビジネスにおいては、これらに正面から立ち向かってもかなわない場合が多いです。
突破することを考えるよりも、自分なりの参入障壁を構築することに注力した方が、良い結果が出ます。
要因2 競合業者間の競争
業界内の競争が激しくなる要因
この点について、ポーターは、次の8つの要因を挙げています
- 同業者が多い、あるいは、似た規模の会社がひしめいている。
- 業界の成長スピードが遅い。
- 固定コスト又は在庫コストが高い。
- 製品差別化がない、あるいは、買い手を変えるのにコストがかからない。
- キャパシティを小刻みに増やせない。
- 競争業者がそれぞれ異質な戦略を持つ。
- 戦略が良ければ成果が大きい。
- 撤退障壁が大きい。
これらの度合いが大きくなるほど、業界内の競争は熾烈度を増します。
こうした競争の要因は、時間とともに変化します
変化の要因としては、
〇業界の成熟化に伴う成長率の鈍化
〇買収による異質な企業の登場
などがあります。
競争環境に影響する参入障壁と撤退障壁とは
撤退障壁とは、既存企業が業界からの撤退を拒む要因です。
例えばその業種用に特化した資産は、撤退障壁の一つになります。
特殊な資産は、撤退時に価格が低く見積もられるため、撤退したい企業も踏みとどまらざるを得ないからです。
結果、少しでも資産を回転させようとするため、競争が激しくなるのです。
こうした撤退障壁と参入障壁の関係は、下図のようになります。
たとえば、既に業界に参入している企業にとって最も好都合なのは、参入障壁大・撤退障壁小の業界であることがわかります。
逆に参入障壁小・撤退障壁大の業界への参入は、細心の注意が必要です。
景気が悪くなっても撤退できず、業界の収益率は低下するという傾向を持つからです
要因3 代替商品・サービスの脅威
既存の製品を代替するような潜在能力を持つ製品との間には、競争関係が成り立つことになります。
例えば、スマホなどは周り中、敵だらけですね(笑)
ポーターは、代替品を「現在の製品と同じ機能を果たしうる他の製品」と定義しています。
その上で、注意すべき潜在的代替製品として、次の2つをあげています
- 現在の製品よりも「価格対性能比」が良くなる傾向を持つ製品
- 高収益を上げている業界によって生産される製品
こうした代替品に対しては、迎撃するか、戦いを避けるかどちらかの戦略を取ることになります。
逆に、我々弱者は、常に代替品となるべく・破壊的イノベーションを起こすべく活動する必要があるということですね。
要因4 買い手の交渉力
この場合の「買い手」とは、消費者だけではありません。
例えば、飲食店に対するぐるなび、商店に対する楽天、出品者に対するAmazonなども、事業者にとっての「買い手」となります。
買い手の交渉力が強くなる要因
ポーターは、買い手の交渉力が強くなる要因として、次の6つの要因を指摘しています
- 買い手が集中化していて、売り手にとって大量の購入をする場合
- 買い手の購入する製品が、買い手のコスト又は購入物全体に占める割合が大きい場合
- 取引先を変えるコストが安い場合
- 売り手の製品が、買い手の製品やサービスの品質にとって、ほとんど関係ない場合
- 買い手が十分な情報を持つ場合
- 消費者の購入決定に影響力を行使できる 場合
このような買い手の動きに対しては、交渉力の弱い相手を選んだり、あるいは価格敏感度の低い顧客を選んだりすることが、強い立場を維持するための戦略の一つです。
取引をする買い手の全員が、必ずしも大きな交渉力を持っているわけではありません。
そうした中から弱い相手を見つけ出せれば、戦略的な立場を強化できます。
また、値引き交渉は、本来相手に備わった交渉力ですが、全ての顧客が価格に敏感なわけではありません。
ターゲットの中から価格敏感度の低い顧客(※)を見つけ出し、それに対して販売することも顧客選択のポイントとなります。
※ 価格敏感度の低い買い手
価格敏感度の低い買い手は、良い顧客となります。
価格敏感度の低い顧客とは、
・製品コストに占める仕入れ品コスト比率が小さいケース
・仕入品が、買い手に大幅なコストダウンや、効率アップをもたらすケース
・高品質化に、仕入れ品が役立っているケース
などのケースです。
こうした価格敏感度の低い顧客を見つける・作ることも、重要な戦略です。
要因5 売り手の交渉力
「売り手」とは、製品やサービスを提供する供給業者です。
売り手の地位が高いほど、業界の競争は激しさを増します。
新規参入者にとって、魅力的に映るからです。
売り手の集約度が高くなる要因
売り手の地位が高くなる場合としては、「売り手の業界が、少数の企業によって牛耳られており、買い手の業界より集約されているというケース」があります。
典型的なのは東京電力や携帯電話キャリアなどですね。
こうした交渉力の強い売り手は、買い手に対して高圧的態度で望めるというメリットがあります。
そして、価格を上げる・製品の質を下げる・納期を遅らせるなどの交渉が可能になります
また、買い手の中から交渉力の弱い相手を見つけ出すことで、そのグループから収益をあげられます。
その他、売り手の交渉力が高まるケース
ポーターは、それ以外にも売り手の交渉力が高まる要因として、次のようなケースを指摘しています。
- 買い手の業界が、供給業者グループにとって重要な顧客ではない場合
- 供給業者の製品が、買い手の事業にとって重要な仕入れ品である場合
- 差別化された製品のため、他の製品に変更すると買い手のコストが増す場合
- 供給業者が、今後確実に川下統合に乗り出しという姿勢を示した場合
こうした影響が大きくなるほど、相手側の業界は不利な立場となり、競争が激化することになります。
たとえば、我々のような中小事業者であっても、そもそも顧客のキャパが限られていますので、ある特定のジャンルの買い手に対して「強い売り手」となれれば、収益性を各段に向上させることができます。
それがどこにいるのか?
「探し当てる旅」に出る価値はありますよ。
ファイブ・フォースからの戦略設定
ファイブ・フォースを土台に業界を分析すれば、業界の競争構造を理解できます。
そして、この分析結果が、戦略策定をするにあたって、極めて重要な情報源となります。
競争戦略とは何か
ファイブ・フォースを用いてその業界の構造を分析すると、業界の競争構造を的確に把握できます。
そして、分析した競争環境の中で、自社のポジションを検討し、その上で自社の戦略を構築しましょう。
ポーターは、効果的な競争戦略の構築を「5つの競争要因ごとに、防衛可能なキーを作り出すために攻撃、あるいは防御のアクションを打つこと」と定義しています。
防衛可能な地位を確立するためにどうするか
ポーターは、防衛可能な地位を確立する具体的な行動として、次の3つをあげています
- 最良のポジションを作ること
- 競争要因のバランスに努めること
- 変化をうまく利用すること
つまり、競争戦略の策定とは、こういう具体的な手法を通じて「5つの競争要因ごとに防衛可能なポジションを作り出すこと」に他ならないのです。
ファイブ・フォースが「競争構造の分析」のみならず、「戦略策定のツール」としても活用できることがわかりますね。
まとめ
日本は「武士の國」です。
よって、基本は「1:1」で正々堂々となります。
一方、諸外国、特に大陸は、周囲を敵に囲まれています。
常に周りの状況を把握しておく必要があるのです。
そういう意味で、日本人は「目の前のお客さん」はとても気にするのに、「外部環境」に気を配ることを不得手にしている感があります。
だからこそ、たとえ外国の論理であっても、有用なものはドンドン取り入れて、「優位性を作る&保つ」で最後まで生き残りましょう。
このシリーズの続きも、是非最後までご覧ください。