「差別化という言葉では、何か今一つピンとこない…」
そう思ったなら、それはラッキーです。
シンプルな言葉はわかり易いですが、解釈の幅がありすぎて、かえって方向性を誤ることもあります。
猪突猛進だけがいいわけではありませんよね。
今回は、星野リゾート代表・星野佳路氏の言葉から学んでみましょう。
「所有しない」
箱を持たずに運営を任せてもらう
(ホテルを)所有することに対してすごく不安を感じた。
リスクが大きいと。
パフォーマンスの悪いホテルが、既に日本中にある。
資産を所有することにはリスクがある
「資産価値の減少」
物であれば主に経年劣化、つまり「古くなる」という事です。
特に日本では、古くなれば単純に価値が低くなると認識されますね。
「維持コスト・ランニングコストの発生」
資産を持つと、それを維持する費用や活用させるための費用が発生します。
車なら、走らないで置いておくだけでも、本体価格のほか、駐車場代や保険料、車検費用や税金などが必要になります。
走れば当然、ガソリン代や高速道路代もかかります。
不動産を所有すれば、同じようにたくさんの費用がかかるわけです。
「資産中心のビジネスは活動範囲が限定されやすい」
店舗を構えるのとネットで販売するのでは、どちらが広範囲からお客さまを集めることができるかと考えるとわかり易いですね。
資産中心ビジネスで、広範囲にお客さまを集めるのであれば、それだけ多くの資産が必要になってくるということです。
例えば、あなたが「豪邸が欲しい!温泉付きもいい!」と思うのであれば、物件価格のほかにどれだけのコストがかかるのか、計算してみたことはありますか?(笑)
運営が上手いことが大事
(運営に注力すれば)学びも多くなる。
借金をしなくて済むので動きが速くなる。
不動産に価値を持たせるのは運営の手腕である。
付加価値を重視する
資産頼みの商売をせず、より付加価値を上がていくには?という命題に注力しています。
限られたリソース、特に「お金(資金)」については、資産を購入すれば、その分の資金がロックされます。
同じ資産でも、お金→不動産に形を変えています。(このようなケースを「流動性の悪化」と表現します。)
多額の借金をすれば、キャッシュフロー面での融通性が悪化して、利息の支払いも生じますね。
限られたリソースを付加価値を上げていくことに集中する戦略です。
競争優位の概念
所有したい人は世の中に多いが、うまく運営ができる人は少ない
留学時代に読んだ論文がきっかけ。
アメリカには研究者がいっぱいいて、いわゆるビジネスの常識というものが確立されている。
将棋だって囲碁をだって定石がある。
定石は失敗の確率を下げことができる(成功の確率を上げるわけではない)。
教科書通りの経営が出発点。
マイケル・ポーターの競争戦略がベースとなっている。
「競争優位となるには?」
まずこれを考えることは、とても大切です。
考え方の基本はトレードオフ。右に行ったら左には行けない。
多くの人は犠牲を伴わない活動を重視する。
いいものを作れば売れる。例えば、美味しいコーヒーを作れば売れる。
でもそういうものは真似されやすい。
ここが大事(真似されないこと)。
他人はリスクに思っても、自分にはリスクでないことを取るのが正しい選択。
もっと言えば、競争をしないということがベスト。
「どうぞ真似してください。その代わり、あなたにはこういう犠牲がありますからね。」というように、今あなたが得ているメリットの一部を捨てなければなりませんよ、ということを迫る。
そういう活動が四つも五つもあると、会社全部を変えなければならない。
多くを犠牲にしなければなかなか真似できないという状況になる。
「彼らにとって犠牲を伴う戦略とは何だろう」と考える
競争相手は世界的大手のホテルチェーン。
ヒルトンとかハイアットとか。
そこに勝てるような戦略を組んでかないといけない。
そこでマルチタスクである。
マルチタスクというのは、一人のスタッフがホテルの全てのスキルを身につけて行うこと。
チェックインもできれば部屋の清掃もできる。調理もできる、サービスもできる。
大手のホテルは絶対真似してこない。
これが実は労働生産性を高める。
今までは専門家をいっぱい作って流れ作業でこなす。
でも、生産性向上の鍵は「お客さんの流れ」。
実はお客さんは寝ている時はみんな一緒に寝ているし、チェックアウトする時はみんな一斉にチェックアウトする。
つまり、労働負荷がかかる場所が規則的に変わっていっている。
その規則的に変わる労働負荷に合わせて、もしスタッフが移動することができればこれが一番労働性が高い。
これがなかなかできない。
大手ホテルチェーンはそれぞれの専門分野を集めているので、今からマルチタスクにするコストというのはメリットよりもコストの方が高い。
そういう意味ではホテルよりも旅館的な構造になっている。
「真似されない」&「生産性を高める」を同時に達成できる方法。
これが出来れば最高です!
煙が出るくらいアタマを捻る価値は十分にあります。
マーケティング
マーケティングとは、顧客の声を聞く聴くことである
ここで大事なのは、お客様は確かに自分のニーズを語ってくれる、でも同じことを競合にも語っているということ。
真面目にマーケティングをやればやるほど、みんなが同じサービスをやるようになってくる。
行き過ぎたマーケティングが生むものは商品の均質化である。
なので、普通のマーケティングをやっても決して競争優位にはならない。
マーケティングをやりすぎたがために世界中のホテルがみんな良いサービスになった。
差別化ができていないという状況になった。
結局サービスが同じであれば、価格はどこが一番安いんですかという話になる。
そのようなコモディティ化から脱して行くにはどうしたらいいか?
それはお客様に聞くんではなくて自分のこだわりを出していく(もちろんお客様の要望は全て満たした上での話)。
こういう体験をして、こういう時間を過ごしていただきたい。
これが私たちのこだわり。
そして、それを出していくことがおもてなしだと私は思っている。
「マーケティング+独自性」。
この独自性、これもつまりは競争優位のための1要素です。
以前は「差別化」と言われていましたが、最近では「個別化」とか「本人性」と言われます。
この違いは、「無理をして作るのではなく、本来持っているチカラを伸ばす」というような意味が付加されているためです。
「そのままの自分でいい」
ビジネスでもプライベートでも同じですね。
星野佳路氏について
「日本には日本旅館もあるし、日本建築もあるし、日本食もある。にもかかわらずホテルとなると急に西洋式ホテルになる。日本文化こそが(埋もれた)観光資源。」
そう仰っていた星野氏は、軽井沢の温泉旅館の家系に生まれた四代目。
いずれは自分が旅館を継ぐという前提で、アメリカニューヨークのコーネル大学
に留学。(同大学はホテル経営学において、最高峰の教育機関と評されている。)
私たちも日本という国をもっともっと愛し、「和」を大切にしていきたいですね。
まとめ
- 「所有しない」
リスクを避け、リソースを集中 - 「競争優位性」
どこにあるか・どう作るか - 「マーケティング+独自性」
よく聴き、満たし、半歩先を示す
言葉は易し・実行は難し。
でも難しくて大変だからこそ優位性が生まれます。
「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」
シンジ君だって頑張ったから結果がありますものね。
追伸:
これは、星野氏が「Innovative Tomorrow VRが変えるあの業界の未来!(BS日テレ)」という番組でお話しされていたものの抜粋です。
またご紹介したいものがあれば、今後もお伝えしていきます。
しかし、この番組をみていると、MCのパックンの頭の良さに思わずうーんと唸ってしまいます。
彼を抜擢した制作陣にも拍手を送りたいです。