競争の基本戦略~有利なポジションを構築するための3つの選択肢
前回お話ししたように、競争戦略の本質は、5つの競争要因(ファイブ・フォース)から身を守るための攻撃的・防御的な活動にあります。
そして、この5つの競争要因から身を守る「長期的かつ基本的な戦略」は、次の3つに集約されます。
- コストリーダーシップ
「低コスト」を武器として戦うこと - 差別化
「他の企業にない特徴」を活かして、業界内で特異なポジションに立つこと - 集中
特定の地域や特定のターゲットに「リソースを集中」すること
なお、「3」の集中戦略は、セグメントを特定したうえで、コストリーダーシップか差別化、若しくは両方の戦略を取ります。
つまり、最もベーシックな戦略は、「コストリーダーシップ」か「差別化」であって、これを特定のセグメントで実行すれば「集中」となるのです。
基本戦略1 コストリーダーシップ
コストリーダーシップとは
コストリーダーシップとは、低コスト体質の実現により、競合業者よりも低価格で製品やサービスを提供する戦略です。
コストリーダーシップ戦略を取ることができれば、「コスト面の有利さ」という最高の武器を使って参入障壁を作ることができます。
コストリーダーシップと5つの競争要因
コストリーダーシップ戦略による参入障壁を作れば、次のように、5つの競争要因から身を守るポジションを確立できます。
- 新規参入者には、低コストという参入障壁を作れる。
- 競合業者には、業界平均以上の収益力で体力勝負でも負けないポジションを示せる。
- 代替品に対しても、同業者より有利な立場に立てる。
- 買い手(の交渉力)の値引攻勢にも耐えられる。
- 供給業者(売り手の交渉力)の原材料コスト高等にも対応できる。
これにより、業界内に多少の競争要因があっても、平均以上の収益を生める強い企業体質を実現できます。
コストリーダーシップを実現するためには
ただし、コストリーダーシップ戦略を進めるためには、多くの課題があります。
まずは、「大きな市場シェアの確保」「他社にない技術力」「原材料を有利な価格で入手できる環境」などの問題を解決しなければなりません。
また、最先端の設備を導入して攻撃的な価格政策を実行しなければならないなど、事業の初期には、赤字覚悟の攻勢が必要になります。
ある程度のシェアを獲得した後にも、シェアを維持するための再投資が不可欠になります。
基本戦略2 差別化
差別化とは
差別化とは、製品やサービスに特徴を持たせて、業界内で特異なポジションを占めようとする戦略です。
差別化に成功するということは、差別化した製品やサービスが顧客に受け入れられたことを意味します。
これは顧客がブランドを広く認知するとともに、その良さを支持した表れとも言えます。
差別化と5つの競争要因
- 新規参入業者にとっては、広く支持されたブランド力が大きな参入障壁として働きます。
- 競合業者からの攻撃に対しても大きな武器となります。
- 代替品に対しても、他の業者より有利な立場に立てます。
- 他企業から同じ物を購入できないので、買い手の交渉力を弱める働きをします。
- 差別化から得られる大きな利益は、供給業者の圧力回避の資源に流用できます。
このように、差別化を実現すると5つの競争要因から身を守るポジションにつけることがわかります。
そして、こうした差別化戦略に成功し推進しながらも。常に低コスト体質を目指すことは重要です。
基本戦略3 集中
集中とは
集中とは、特定の地域や特定の購入者などに経営資源を集中する戦略です。
この戦略では、経営資源を集中し特定のセグメントでコストリーダーシップ戦略や差別化戦略、又はその両方を実現することになります。
したがって、前述したコストリーダーシップや差別化が業界全体を対象とするのに対し、特定のセグメントに特化したコストリーダーシップや差別化を行うことが、集中戦略です。
集中と5つの競争要因
集中戦略が成功すれば、一般的には業界平均を上回る収益を得られます。
特定のセグメントにおいて、コストリーダーシップや差別化、あるいはその両方を同時に達成できるからです。
これにより、5つの競争要因に対して防御可能なポジションを形成でき、収益力を高めます。
ただし、特定のセグメントに絞り込むため、業界全体を対象とする展開よりは市場規模が小さくなります。
そのため、十分な収益の得られるセグメントを発見することが最も重要な課題になります。
最低1つの基本戦略を採用する
5つの競争要因に対処する基本戦略は、長期的に見た場合、コストリーダーシップ・差別化・集中の3つしかありません。
業績不振の会社の多くは、この3つの基本戦略のいずれも採用していない場合が多いです。
あるいは、いずれかの戦略を採用しても、短期間で戦略転換(無駄なコストも発生)してしまうなどの場合もあります。
それぞれの戦略を推進するには
選択した戦略によって、会社の行動は大きく変わります。
例えば、コストリーダーシップの場合であれば、製造しやすい製品設計や低コストの流通システムなどを駆使してシェア拡大を目指すことが不可欠になります。
差別化戦略を選んだ場合は、強力なマーケティング能力やずば抜けた製品エンジニアリング能力が不可欠です。
逆に言えば、3つの戦略を全て同じように実行できる企業はほとんどありません。
したがって、自社にふさわしい戦略を早期に発見することが最も重要です。
3つの基本戦略のリスク
3つの基本戦略にも、リスクがあります。
何かを選択するということは、同時にリスクを取る行為だからです。
なので、どの戦略を選択するにしても、予めそのリスクを理解しておくことが重要です。
コストリーダーシップ戦略のリスク
- 最新設備に投資するなど、初期に大きな負担がかかる。
- その後も、ポジション維持のための投資費用がかかる。
- テクノロジーの変化により、規模の経済や経験曲線が水泡に帰す。
- 競合業者が、更なる低コスト化を実現することも考えられる。
- コスト削減にばかり目が行きがちになり、マーケティングがおろそかになりやすい。
差別化戦略のリスク
- 低コスト企業との間でのコストの差が、許容度を超えて広がる場合がある。
- 差別化要因が飽きられてニーズがなくなる。
- その要因の模倣が盛んになり、差別化が認められなくなる。
集中戦略のリスク
- 業界全体を対象とする企業との間で、コストの差が大きく開く。
- 戦略的に絞り込んだターゲットと市場のニーズが同じになり、集中が無意味になる。
- 競合業者による更なる効果的セグメント化のリスク。
- 当初の選定を誤れば、そもそも売上(利益)が得られない。
まとめ
私たち中小の場合は、
- 特定のニッチ分野を見つける。
- その分野で、経験曲線を活かした低コスト化を実現する。
- その分野に対する差別化&集中を行う。
やはり、これです。
しかし、仮にそれが成功したとしても、いつまでもそのポジションには留まれないはずです。
つまり、1つ目の仕掛けが軌道に乗りそうな時点で、2つ目のジャンルを獲りに行くための行動を開始する。そしてそれを繰り返す。
難しいですが、やるしかありません。
売上イメージとしては、こんな感じで絶対額をキープしていくイメージです。
今の時代の変化スピードは速いですが、それは反面、良い事でもあります。
私たちには「小回りが利く」という、大企業にはない利点があります。
そして、資本力ではなく、「眼力勝負」「対応勝負」に持ち込むのです。
その眼力等をフルに生かし、常に時代の変化と共にあり続けられれば、勝算は十分にあります!