戦略を意思決定する際のポイント
ポーターは、戦略的な意思決定の基本タイプとして
- 垂直統合
- キャパシティ拡大
- 新事業参入
の3つを挙げています。
以下で、それぞれの特徴を見ることにしましょう。
意思決定1 垂直統合
垂直統合とは
垂直統合とは、異なる経済活動を一つの企業に統合することです。
そして、垂直統合には、川上統合と川下統合があります。
川上統合とは、自社の立場を基準にして「供給業者寄り」の経済活動を統合することです。
川下統合とはその逆、つまり、自社の立場を基準にして「買い手側寄り」の経済活動を統合することです。
垂直統合のメリットとデメリット(コスト)
垂直統合のメリット
- 統合の経済性
- 新しい技術の修得
- 需要と供給の確保
- 取引圧力をかわし、有利な原価で調達する
- 差別化の力を強める
- 参入障壁または移動障壁を高くする
- 収益性の高い事業に参入する
- 系列化が進む中での自衛対策
垂直統合のデメリット(コスト)
- 移動障壁を乗り越えるコストが必要
- 企業運営上の打つべき施策が増える
- 取引相手を自由に変えられない
- 撤退障壁を高くする
- 必要となる資金量が大きい
- 研究やノウハウの他社依存が許されない
- バランスを保つ必要がある
- 刺激が鈍る
- 異なった経営方式が必要となる
このようなメリット・デメリットを十分理解した上で、川上か川下といった、どちらの垂直統合をするのかの意思決定をする必要があります。
垂直統合の意思決定する際には
川上統合と川下統合は、同じ垂直統合ながら共に異なる特徴があります
この点が、垂直統合を決定する際の重要事項です
川下統合および川上統合の特徴
〇 川下統合の特徴
製品差別化の能力が高まる
川下統合では、生産工程や販売方法で管理できる要素が増えるからです。
流通チャネルを入手できる
より顧客に近い経済活動を統合することから、顧客情報を得られやすくなります。
さらに、顧客によっては売値をあげられるというメリットもあります。
〇 川上統合の特徴
製品差別化の能力が高まる
川上統合では、中枢となる原材料の管理ができるようになります。
社外に情報が漏れにくい
川上統合することで、例えば、詳しい仕様書などを社外に見せることなく、部品や材料を手に入れられます。結果、社外に情報が漏れにくくなるというわけです。
垂直統合の錯覚
ただし、垂直統合する場合、次のような錯覚をする場合もあります。
- 社内でやれば必ず安く上がる
- 垂直統合は、戦略的に弱い経営を救ってくれる
- 垂直連鎖の中の一つの段階で、強い市場のポジションを占めていれば、おのずと他の段階でも強くなる
- 垂直連鎖の一つの段階を経験していると、川上部門や川下部門を経営する力もつく
- 競争の激しい事業に統合して進出するのは良い手だ
意思決定2 キャパシティ(生産能力)拡大
キャパシティ拡大とは、設備を拡大して生産能力を高めることです。
以下で、キャパシティ拡大の手順とキャパシティ過剰になる理由について説明します。
キャパシティ拡大の意思決定の手順
キャパシティ拡大を意思決定する際の手順は、次の7つです。
- 規模と実現可能な打ち手を考える
- 将来の需要量と生産コストを推定する
- 将来の技術動向と設備の陳腐化を推定する
- 競争業者ごとの設備拡大を予測する
- 業界の需要と供給のバランスを推定する
- 設備拡大による収入額を推定する
- 分析結果をチェックする
この場合、「将来についての不確実性の程度」が重要な要素になります。
不確実性の程度が大きい場合は、リスクに対する考え方によって企業の対応が変わりますが、不確実性の程度が小さい場合なら、企業はこぞって同じ方向に向かうことになります。
キャパシティ過剰になる理由
キャパシティ拡大の意思決定では、常にキャパシティ過剰についても考えておく必要があります。
ポーターは、キャパシティが過剰になる理由として、次のようなものを挙げています。
- 技術面での原因
一度に大きくキャパシティを増やさなければならないなど - 業界構造上の原因
強力な撤退障壁があるなど - 競争上での原因
同業者の数が多いなど - 情報上の原因
将来への過大な期待感など - 経営上での原因
生産志向型の経営者など - 政府の動きが原因
設備投資を誘う不当な税制など
これらのうち、1つまたは2つ以上の条件がその業界に存在する時、設備過剰になるリスクがあります。
キャパシティ拡大のための授業先取り戦略
キャパシティ拡大には「需要先取り戦略」という手法があります。
これは、将来の需要を正確に把握し、キャパシティ拡大により、市場の大部分をあらかじめ押さえてしまおうという戦略です。
需要先取り戦略とは何か
ポーターは、需要先取り戦略を「市場の大部分をあらかじめ押さえておき、競合業者の設備拡大意欲をくじき、市場への参入を遅らせようとするもの」と定義しています。
予め需要を的確に予測し、全ての需要に応えられるキャパシティを備えたら、競合業者の設備拡大意欲をなくすのに十分な効果があるということです。
一方、需要先取り戦略には、大きなコストとリスクが伴います。
コストとしては、大きな設備投資、赤字も視野に入れた短期的な利益の減少などがあります。
また、リスクとしては、需要を完全に把握する前に大きな投資が必要なこと、また競争相手の設備拡大を阻止できず設備過剰に陥ることが考えられます。
需要先取り戦略に必要な条件
こうした需要先取り戦略に成功するには、以下の条件をすべて満たす必要があるとポーターは言っています。
- 期待される市場規模に見合うだけの大規模な設備拡大
- 規模の経済・ 経験曲線が現れる市場で設備拡大を行う
- 授業先取り戦略を採る企業には信頼性がある
- 先取り戦略の意向があることを示す能力がある
- 今日も業者に進んで身を引く意思がなければならない
意思決定3 新事業参入
新事業への参入も、戦略的な意思決定の重要な類型の1つです。
新事業の参入には「自社内の開発による参入」と「吸収合併」 の2種類があります。
自社内での開発を元にした新規参入
自社内での開発を前提にした新事業参入では、「構造上の参入障壁」 と「 既存業者の敵対行動」に直面します。
そのため、次のような点を考慮して参入事業を選択するといいでしょう。
- 不均衡状態にある業界
- 既存業者の反撃が遅いかまたは効果的な反撃がないと思われる業界
- 他社に比べて参入コストが少なく済む業界
- 自社の力によって業界構造を変えられる業界
- 参入によって自社の既存事業にプラスの効果が生じる業界
どんなコンセプトで戦うか
参入先の業界が決まったら、どのような考え方で競争業者と戦うのかが重要です。
基本は、次のようなものです。
- 製品コストの引き下げ
- 低価格販売によるシェアの獲得
- より優れた製品の発売
- 新しいセグメントの発見
- 新しいマーケティング手法の導入
- 他の事業の流通網が利用できるか
吸収合併による新規参入
既存の企業を吸収合併することでも、新しい事業に参入できます。
吸収合併に成功すると、自社にない経営資源を短期間で自社のものにできます。
ただし、吸収合併がいつも利益をもたらすわけではありません。
吸収合併による新事業の参入では、自社内開発による参入とは異なる視点が必要になります。
利益をもたらす条件は、次の3つです。
- 買収する企業の底値が低い
- 会社市場の機能が不完全
- 吸収した企業を運営する独特のノウハウを持つ
底値とは、売り手がその事業に対して持つ期待価値です。
従って、底値が低いほど買い手にはメリットがあります。
しかし、企業を売買する市場が適切に機能している場合、底値の低い企業は競り上がり、結局高値がつきます。
逆に、会社市場の機能が不完全だと、底値の企業を底値のまま買い取れる可能性が高くなります。
加えて、吸収した事業を運営するノウハウを所有していれば、利益は更に増すでしょう。
吸収合併を成功させるために
吸収合併で利益を得るには、上記3つの条件のうち少なくとも2つは満たすべきだとポーターは言います。
また、ある戦略グループに所属する企業を吸収合併し、その後、別の戦略グループへ参入すると言った、段階的方法もあると言います。
まとめ
今回は、戦略的な意思決定の基本タイプとして
- 垂直統合
- キャパシティ拡大
- 新事業参入
の3つについてお話ししました。
一番最初の回にも言いましたが、ポーターの理論は、基本的に「大企業・既存企業の視点」から語られています。
ですので、私たちのようなスモール・ビジネスを営む場合は、「規模を小さくする」「必要な部分だけ読む」「裏側から逆読みする」等して、自社の状況に合うように考えてください。
ピッタリ嵌らないものをいかに上手く利用するかも、経営の醍醐味ですね。
以上、全5回のシリーズでした。
お疲れさまでした(^^♪